院長の佐藤です。
医師の仕事を始めて今年で14年目になります。
まだまだ若輩ながら、何十もの病院の外来で来る日も来る日も骨のレントゲン画像を毎日何十枚、何百枚と眺めては診断をつけてきました。
大学病院などでは朝のカンファレンス、また教授総回診など(皆様がドラマなどで見たことのあるあのまんまの光景です)で入院患者様数十人分のレントゲン画像をモニターに出して上司や教授に診断や病状を伝え、色々とありがたい御指導をいただいては胃に穴が空きそうになる、という日々を何年も繰り返してきました。
また教科書や研究会、学会などで珍しい病気や怪我などの特殊なレントゲン画像所見を見ては頭に叩き込み、日々の外来で見逃すことのないように備えるという作業も膨大な時間をかけて行ってきました。
そんなところでザッと振り返って概算してみると、ゆうに数十万枚以上のレントゲン画像を診てきたなぁと感慨深くなります。
さて、なぜ整形外科では今もレントゲン検査が基本なのか?
最近はMRIや超音波画像診断なども発達してきており、確かにこうしたものでしか見えない組織も多く、診断を進める上でこれらの機器に頼ることが必要な場合も少なくないのですが、それでも患者様が受診されてお話を伺い、まずレントゲンを撮ることには今も多くの意味があります。
- レントゲン検査で得られる情報が沢山有ること
- 色々な検査の中でもレントゲン画像で診るのが一番ハッキリとわかる疾患が多いこと
- レントゲン画像で現在の病状や治療経過の良さ、悪さが判定できることから治療の選択肢の決定に役立つこと
- 放射線被ばく量がCT検査などに比べるとごく僅かであること(参考文献1)
- MRIやPET、血液検査などに比べて短時間かつ比較的安価で行うことが出来、費用対効果が優れた検査であること
などが挙げられます。
レントゲンにまつわる沢山のエピソードが思い出されますが、本日はその中の一部を御紹介します。(以下は全て実例ですが、プライバシーに配慮し事実を若干歪めて書いています)
- とある部位の痛みで来院された方。「怪我ではないので骨折はしていない。でも明らかにその部位の痛みが強いし、なんか腫れている。何でしょうか?」と言う患者様の患部。確かに痛そうだし、骨に何らかの異常はありそうなのでレントゲンを撮る許可をいただき撮ってみたところ、しっかりと骨折しているのを確認!
でもそれを伝えてもご本人は「そんなはずはない!おかしい!折れるようなことはしていない。」と納得されず。でもどう見ても骨折ですよ…ほら…とこちらは苦笑いするしかない…。と言う症例、実は部位によらずかなり沢山経験しています。結局何故骨折したかの真相は闇の中ですが、レントゲンはこうしたときに患者様の主張に惑わされることなく客観的な答えを示してくれること、また患者様自身にも画像をお見せして納得していただき、治療に進むのにも役立ちます(苦笑)
- 「指が腫れて痛い、お年頃(更年期障害)でしょうか?」または「手首が痛い、腱鞘炎でしょうか?」と言ってご来院される多くの方。ほとんどの方はその通りお年頃で痛くなってる場合が多いのですが、まれに骨の腫瘍で腫れているという方がおられます。レントゲン検査で即座に診断がつきます。すぐに手紙を書き、しかるべき医療機関で手術の手続きに入っていただきます。
「首が痛い、寝違えてからその後もずっと痛い。」と首をさすりながら来られる方も多くいらっしゃいます。ある日首の痛みが続いているということで受診された方、訴えとしては普通の寝違えの痛み方と殆ど変わらず、まぁ寝違えが長引いているだけの可能性は高いかと思いますが…と思いつつレントゲンを撮影して確認してみたところ、頚椎の骨が悪性腫瘍の転移の末に半分溶けてしまっていた(!)と言う事がありました。その方はとある臓器のがんが頚椎に転移していたのですが、その臓器のがんについてもまだ自覚のない状態であったことから、偶然に整形外科で撮影した首の画像からすべてが芋づる式に明らかになり結局大事になり即入院、色々な科の医師が出てきて全身検査・治療となりました。
このような方は決して稀ではありません。大学病院に勤務していた時には日常でよく見聞きしたことです。
レントゲンを見ずに「ハイ、その通りお年頃です、腱鞘炎です、寝違えです、お薬出しときます。」で流していると、それがあとで良くない腫瘍が原因だったと判明し、診断が遅れて病巣が拡大してしまっていたとき、患者様ご本人のみならずそれを見逃してしまった医療者としても痛恨の想いで悩み落ち込んでしまうことになります。
骨腫瘍や骨転移は四肢や背骨など全身のあらゆる骨に唐突に生じてくることも有り、自覚症状も様々ですがレントゲンで患部を観察してみることで多くの腫瘍性病変を見つけることが可能です(※レントゲンでもほとんど見つけることのできない擬態上手な腫瘍も存在します)。
医療機関の重要な役割の1つとして、それまで見逃されていたこうした悪い病気をなるべく初期の状態で拾い出して診断をつける、という役目があると思っていますので、なかなか治ってこない症状については一度はレントゲン検査を受けられるのをお勧めしています。
もう一つレントゲンに関する話題として、例えば足首や背骨のレントゲンを撮るのに一度に四枚も撮ったけど、四枚も撮って一体何を見てるの?などの疑問へのお答え。
まず人間の骨はご存じの通り、身体の部位によって色々な形をしています。
そして骨折の折れ方や、骨の病気の出方もそれぞれの部位で千差万別です。年齢に関しても、同じ部位の骨折でも子供ではこう言う折れ方をする、大人ではこう言う折れ方をする、というのが全て違います。
例えば骨折などを疑ってレントゲン検査をするにしても、正面から一枚パシャ、とレントゲンを当てて得た画像(正面像と言います)だけでは骨折が映らず、全く正常に見えてしまう事が少なくありません。
なので横から撮ってみる側面像、斜めから撮って骨の奥の方を確認する斜位、特殊な角度から撮ったときにしか見つけられない骨折を映すためだけにある撮り方と言うのも人体の部位によってたくさんあります。
そう言うマニアックな撮り方は○○view等と名前がついています。(参考文献2)
そうして色々な角度から何枚か撮った結果、最初の数枚には骨折は全く見えなかったが、最後に角度を変えて撮った1枚だけにしっかりと骨折の線がみえたので骨折と診断できたと言う事が実際の診療ではかなり多くあります。
そしてその1枚を撮っていなければ「骨折の見逃し」になってしまいます。これは患者様の不利益になることも甚だしく、プロである我々にとっても恥ずべき事であるので何としても避けなければいけません。
また、背骨のレントゲンを撮っていただくとき、同じ横からの撮影でも思い切り前屈みになって撮ったり、反対に思い切り反らせて撮ったり、挙げ句の果てには寝かせて撮ったり立たせて撮ったり、一体何を見てるの?と言うことですが、これは屈んだり反らしたりした状態の背骨を観察することで、椎間板と背骨の関係性がそうした動きの中でズレてくるのか(靭帯の緩み、すべり症の程度、椎間板の痛み具合)、全くズレないのか、関節が不安定で脱臼して来ないか、背骨の椎体が潰れたり開いたりしてこないか。
つまり色々な条件で何枚も撮って診ることで脊髄を強く圧迫しているであろう場所を特定したり、圧迫骨折が治っているのか、全く治る兆しがないのか、それらにより手術が必要なのか不要なのか、そうしたものを判定するために立たせたり寝かせたりして撮影をさせていただいています。
ところで、レントゲンの撮り方や読み方だけがひたすら書いてある医学書が複数出版されています。(一例: https://www.medicalview.co.jp/catalog/ISBN978-4-7583-1907-2.html 目次を見てみて下さい)
約206個ある全身の骨を色々な角度から撮影する方法もさらに多く何百通りもあり、そのほぼ全てを把握しているのは我々整形外科医とレントゲンに精通した放射線技師だけです。
整形外科医にとってのレントゲンとは内科医で言う聴診器に相当するので、まずレントゲンで患部を把握するために撮影を行うというのが冒頭の問いへの答えになります。
と言うことで当院では、
- 他のどの病院よりも骨がしっかり見える最新のレントゲン機器で
- 求めた撮影を完璧に撮ってくれる最高レベルの放射線技師とともに
日々の業務を行っております。
どれだけよい環境を創り上げてもレントゲン料金は全国一律ですので患者様負担が変わるわけではないのですが、当院は検査部門においても最高の環境にて地域の皆様の健康を守れるよう備えていますというお話でした。
職員一同いつも元気にご来院をお待ちしております。
参考文献
1 国立がん研究センター がん情報サービス
X線検査とは
2 小児足関節外果裂離骨折における 新しい X 線撮影法の検討
難波一能1 中西左登志2 山田 剛3 伊藤守弘4
日本放射線技術学会雑誌
Vol.69 No.4 Apr2013